令音CEO / AIと人のハイブリッドで事業支援
「Kindle出版って、いくらかかるんですか」と聞かれることがある。
私は令音という一人会社で、2026年に地経学というテーマの本を4冊出した。電子版とペーパーバックの両方を出している。その経験から答えると、出版そのものに払う金は0円だ。ただし、これで話が終わらないから、この記事を書いている。
本当に効いてくる費用は、財布から出ていくのではなく、本の値段を決める画面の中にいる。ここを知らないまま書き進めると、書き終わってから「この厚さだと利益が出ない」と気づくことになる。
KDPに払うものは、本当に0円
まず、はっきりしていることから。
Amazonの出版サービス(KDP)は、アカウント作成も、出版も、審査も無料だ。年会費も手数料の前払いもない。ISBNも、ペーパーバックならAmazonが無料で振ってくれる。紙の本を出すのに、自分で買う必要はない。
在庫も要らない。ペーパーバックは注文が入ってから1冊ずつ刷られるので、刷った分を抱えるリスクがない。ここは個人にとって本当に大きい。
つまり、初期費用ゼロで、紙の本まで出せる。これは誇張ではなく、事実そのままだ。
本当の費用は「印刷原価」という形で毎回引かれる
では何が費用なのか。ペーパーバックが1冊売れるたびに、売値から印刷原価が差し引かれる。著者の手取りは、ざっくりこうなる。
手取り = 定価 × 0.6 − 印刷原価
この印刷原価が曲者だった。私は3冊目まで、次の式で見積もっていた。
印刷原価 = 206 + 頁数 × 2
3冊目までは、これで実際の画面表示とぴったり合っていた。333頁の巻は 206 + 333×2 = 872 で、KDPの表示も¥872。式は正しいと思っていた。
ところが4冊目で外れた。
| 事前の見積り | 実際の画面表示 | |
|---|---|---|
| 印刷原価 | ¥694 | ¥938 |
| 手取り | ¥1,094 | ¥850 |
¥244のズレ。1冊あたりで見れば小さいが、価格設定を判断する場面で2割以上違うのは無視できない。
原因は判型だった——固定費が2種類ある
調べたら、理由は単純だった。KDPの料金表は1本ではない。判型によって固定費が変わる。
標準サイズ: 206 + 頁数 × 2
大型サイズ: 450 + 頁数 × 2
4冊目だけ、それまでと違う大きめの判型にしていた。検算すると 450 + 244×2 = 938 で、実際の表示と1円まで一致した。ズレの¥244は、固定費の差 450 − 206 そのものだった。
頁単価(1頁あたり¥2)は判型が変わっても同じで、動いていたのは固定費のほうだけだったわけだ。
境界は 6.12 × 9 インチ。ここを超えると大型サイズの表に移る。文庫に近いサイズなら標準、少し大きめの単行本サイズにすると大型、という感覚でいい。
この式が効くのは「あと何頁書けるか」の判断
なぜこれが費用の話として重要かというと、頁数の上限を決めてしまうからだ。
手取りを最低¥300は確保したいとする。すると、書ける頁数はこうなる。
標準サイズ・定価¥1,980 → 341頁まで
大型サイズ・定価¥2,980 → 519頁まで
私は4冊目を「大型だから641頁までいける」と見積もっていたが、実際の上限は519頁だった。244頁で収まったので実害は出なかったものの、書き進めてから気づいていたら、削るか値上げするかの二択になっていた。
だから、書き始める前に判型を決めて、上限頁数を計算しておくといい。これはお金を払って回避できる失敗ではなく、知っているかどうかだけの差になる。
財布から出ていくものは、結局これだけ
ここまでが「画面の中の費用」。実際に支払いが発生するとしたら、候補は3つしかない。
表紙。外注すれば数千円から数万円かかる。私は画像生成で自分で作っているので、ここは実質かかっていない。ただし表紙は売れ行きに直結するので、削る場所としては最後に回したほうがいい。
著者用の見本。自分の本を紙で持ちたいときは買える。値段は印刷原価に近い額+送料で、定価では買わなくていい。
広告。Amazon内の広告は出せるが、必須ではない。出さずに販売することもできる。
つまり、やろうと思えば本当に0円で完結する。3つとも「かけたければかけられる」もので、かけないと出せないものではない。
いちばん高いのは、やはり時間
正直に書くと、金額として最大の投資は時間だった。
4冊のうち1冊で、図版を32点作った。機械で検査を通した後も、結局は全部を目で見る工程が消えなかった。検査は「文字が入っているか」は分かるが、「読めるか」は分からないからだ。実際、検査を通った図で、網掛けと文字が重なって判読できないものが出た。
このあたりは次の記事に書くが、費用の質問に対する一番誠実な答えは「お金はほぼ要らない。要るのは時間」になる。逆に言えば、時間を使う覚悟さえあれば、個人が紙の本まで出せる状態が本当に整っているということでもある。
まとめ
- KDPへの支払いは0円。登録も出版もISBNも無料で、在庫リスクもない
- 実質の費用は印刷原価として、売れるたびに定価から引かれる
- 印刷原価は
固定費 + 頁数 × 2。固定費は判型で¥206と¥450の2種類あり、境界は6.12×9インチ - 手取り¥300を下限にすると、標準判型で341頁、大型判型で519頁が実質の上限になる
- 現金で出ていくのは表紙・見本・広告くらいで、どれも必須ではない
「いくらかかるか」を気にして踏み出せていないなら、金額は障害になっていないというのが4冊出した実感だ。先に決めるべきは予算ではなく、判型と厚さだった。
実際に出した4冊は令音の書籍ページにまとめてある。中身の作り方や、つまずいた箇所についても順に書いていく。